
Mさん(女性・30才)は、上司との人間関係が原因で転職を希望していた。Mさんは大手機械メーカーの経理部で働いており、半年前に転職してきた上司の課長のスタッフになっていたが、Mさんはその課長とソリが合わなかったのである。
「もうこれ以上、あの人の元で働きたくないんです。自分は全く仕事をしなくて何でも部下に丸投げしています。調子がいい人なので役員の評価も高いし、今の会社は管理職の異動がほとんどありません。今のままではとてもやっていけません。」
Mさんは顔を赤くして、興奮気味に私に訴えていた。
「でも、Mさんのお話だと今までの仕事自体には満足して比較的順調にキャリアを積んでこられた訳でしょう。今すぐ転職するかどうか、落ち着いて考えられたほうが良いですよ。どの会社でも人事異動によって一緒に働く人が変わって、人間関係で悩んでいる人は多いですし、もう少し様子を見てから転職を考えられてはいかがでしょう。」
「いやこれ限界なんです。決意は固いので転職先を探してください。」
私はもうこれ以上何も言えず、Mさんの転職先探しをお手伝いすることになった。
Mさんの転職活動は、順調だった。仕事への意欲の高さにも加えて、原価計算、月次・年次決算、開示業務等幅広い業務をバランスよく経験しており、すぐに上場企業数社から内定を貰うことができた。Mさんはその中の1社に入社の決意を伝え、退職願いを上司に提出したのであった。
Mさんから退職届が提出されたG社人事は、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。G社では、上司の課長の職務遂行能力がない点が問題視されており、Mさんを次の管理職としてノミネートしていたのである。
結果、MさんはG社人事の懸命の慰留により転職をせずにG社にとどまることとなった。Mさんが内定先に入社の意思を伝えてしまっていたので、私は大変な思いをすることになったが、最終的にはその内定先にも理解を頂き、別の候補者が採用されることで決着した。
今回のMさんの一件は、私にとっては徒労に終わっただけであったが、Mさん本人にとっては転職しない道を選択できて、本当によかったと思う。転職を勧めるキャッチフレーズが巷には溢れているが、間違いなくMさんのように転職しないほうが幸せな結果になることが多いのも事実である。
まさに「転職は慎重に」というところだろう。