転職道中膝栗毛

逃した魚は大きい

ベンチャーと言われる急成長している企業に共通している点がある。優秀な社員は、稼ぎに直結する部門-つまり営業部門、マーケティング部門、企画部門、製作部門等に集められ、逆に管理系部門については、そうでもないスタッフが集められることが多い。しかし、それでは実際に業務が回らないため、ベンチャー企業ではいつも優秀な管理部門スタッフを募集している傾向がある。

一方、管理系部門の仕事をしている人は、保守的でどちらかというと大きな会社で働きたいと希望する場合が多い。そのため、優秀なバックオフィス部門のスタッフは、あまりベンチャー企業に応募をしたがらない傾向にある。
ネット系広告のT社もここ数年で売上げが急激に拡大しており、上場も視野に入っているところであったが、優秀な総務部スタッフの採用に苦戦しているところだった。



T社の人事部長から電話があったのは、我々が自信を持って推薦をしたFさん(男性・33)の件であった。声の調子から、大分混乱しているようだった。

「あのですね~。ご紹介いただいたFさんの件ですが、ちょっとお聞きしたいことがありまして・・・。」

「はい、自信をもって推薦させていただいたのですが、いかがでしょうか?」

「うーん・・・。どうも腑に落ちないのですよ。Fさんが何故うちに応募してきたのか。」

「はい。といいますと?」

「Fさんは、現職で東証1部のR社に、いらっしゃったんですよね?こちらは当社とは格が違うし、スキルも非常に高い。うちは総務部といっても形だけのものだし。課長といっても人数が多いわけではないので、実際はスタッフとそんなに変わらない訳です。何故もっとブランドのある企業に行こうとしないのでしょうか?本人に問題があるんじゃないですか?」

「そんなことないですよ!Fさんは未完成の組織の中で、管理部門全体の部門長になって自分の力を試して行きたいということがあり、御社のような規模感の企業を希望されているんです。」

「そうですか・・・。でも理解できないなあ。書類選考をどうするかは、もう少し検討をさせてください。」



T社からの返事がとても遅かったため、我々はFさんにT社とのやり取りを説明せざるを得ない状況となった。Fさんは、ベンチャーなのに格や肩書きを気にする会社には入りたくないと、辞退することとなってしまった。その後、この顛末を知ったT社の社長は、すごい勢いで人事部長を叱責したということであるが、全ては後の祭りである。

また、Fさんの気持ちも分からなくもないが、ベンチャー企業の管理部門は、未整備であり、優秀な人の数が少なく、だからこそ力があれば、部門長になることも近いということが言える。
今回は、T社もFさんもお互いに逃した魚が大きかったということに違いない。

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