転職道中膝栗毛

なんとなくの転職


転職する人は、それぞれ転職にあたり越えなければならない壁がある。どうしても最終の役員面接を苦手とする人、適性検査を苦手とする人、最初の人事面接を苦手とする人など、誰でも苦手な部分があるものだ。しかし、Kさん(男性・30才)には、意外なところを超えられないでいた。


「Kさん!いかがでしょうか?応募先の企業は決まりましたか?」

「うーん・・・。それがなかなか決まらないんですよ。上場している会社だと、業務が細分化して、良い経験が積めない気がするし。上場していない会社だと、今までやっていることと大差がないので、仕事にすぐ飽きる気がするし・・・。全然決まらないんですよ。」

「でも、そろそろ決めないと・・・。もう最初にお会いしてから4ヶ月になりますよ。我々も業界動向、各企業の内容、Kさんのお持ちのスキルで入りやすい企業など、出せる情報は全て出しています。あとは、自分がどうしたいか?これだけです。」

「とは言ってもですね。なかなか決められないんだなぁ。これが。」

Kさんは、2週に1回、我々のところに仕事帰りに定期的にやってくる。その度に1時間程度、話をして帰るのであるが、特にここ3ヶ月くらいは何の進展もない面談を繰り返していた。最近のKさんは、我々に悪いと思っているのか、和菓子を持ってくるのが慣例になっていた。


ある日、我々は意を決してKさんに聞いてみることにした。

「ひょっとしたらKさん、転職したくないんじゃないですか。本音の部分では、今の環境が良いと思っているから転職活動が開始できないんじゃないでしょうか?」

「そんなことないですよ。真剣に転職を考えています。自分がどこまで社会で通用するか試してみたいんですよ。」

「でもね。転職というのは、自分がどこまで社会で通用するか試す場ではないと思うんですね。違う環境で直ぐに力を発揮できる人は殆どいらっしゃいませんし、そもそも面接で初めて会った企業の方に認めてもらうのは現実的に難しいことだと思うんですよ。実際に応募すると、書類応募の段階で落とされたりすることは多いのが現実だと思いますし・・・。どういう気持ちで転職活動しようとするかは自由ですが、実際面接等の活動を始めると大変なので、私はご自身の気持ちを固められてから活動を始めたほうが良いと思います。今の環境に特に不満がなければ、むしろ転職活動は辞めた方が良いと思います。一回考えられてはいかがでしょうか」

「わかりました・・・。ちょっと考えてみます。」

Kさんは、心なしかちょっとしょんぼりして帰っていった。


後日のKさんからの電話である。

「先日は遅くまでありがとうございました。あれからいろいろ考えていたんですが、周りの友人が転職する奴が多くて、自分もしなければいけないんじゃないかと、ちょっとあせっていたみたいです。今いるところも全てが悪い職場ではないので、もうちょっと自分自身の進むべき道を考えてみたいと思います。」

我々の経験から言えば、はっきりとした転職動機がないところに、幸せな転職活動の結末はやってこない。なので、個人的には、最近安易な転職を助長するCMや広告があちこち目に付くが、あまり良くない傾向だと感じている。

我々は、転職エージェントでありながら、しない方が良いと判断した方に対しては、「転職しないほうが良いですよ」とアドバイスを行っている。ひとりでも幸せな結末となる転職活動をサポートしたいものである。

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